共有持分についての不動産鑑定評価
不動産の共有持分を評価する際には、完全所有権の評価とは異なり、特有の制約やリスクを考慮する必要があります。共有によって処分・利用に制限が生じ、流動性も低下するため、評価上は一定の減価が生じるのが通例です。そのため、まず完全所有権に基づく価格を把握したうえで、共有に起因する要素を考慮して減価率を判定します。
共有持分には、いくつかの明確なデメリットがあります。まず、物件の処分や大規模な改築には他の共有者の同意が必要となり、意見が一致しなければ利用や売却が難しくなります。特に、持分のみを売却する場合には買い手が限られるため、流動性が著しく低下します。また、使用方法や管理費の分担、修繕計画など、共有者間の合意が求められる事項が多く、トラブルの原因になりやすい点もリスクといえます。
さらに、共有者は共有物の分割を請求する権利を有しており、協議がまとまらなければ訴訟や競売に発展する可能性があります。現物分割が困難な場合には、不動産が想定よりも低価格で処分されることもあり得ます。収益不動産であっても、リフォームや賃貸条件の変更に共有者全員の合意が必要なことから、投資効率が低下しやすく、意思決定の柔軟性にも欠けます。
このような共有のリスクを評価に反映させる際には、いくつかの要因を踏まえる必要があります。まず、持分割合が大きければ意思決定への影響力も増すため、減価率は小さくなりがちです。一方で、少数持分では立場が弱く、減価が大きくなります。共有者の人数が多い場合や関係が希薄である場合、合意形成が難しくなるため、減価率も上昇します。
不動産の性質も影響します。たとえば、区分所有マンションのように独立性が高い物件はリスクが低く、減価も小さくなりますが、農地や大規模な土地など現物分割が難しい場合は減価が大きくなりがちです。また、共有持分は市場での需要が限られているため、流動性が低く、敬遠されやすいという点でも減価要因となります。
なお、将来的な処分や利用方針について共有者間で基本的な合意がある場合には、評価上のリスクが軽減され、減価率が抑えられることもあります。
したがって、共有持分の評価においては、まず完全所有権の時価を算定したうえで、共有に伴う不確実性や制約を丁寧に分析し、共有者間の関係や合意状況、分割の可能性など、物件ごとの事情を精査しながら適切な減価率を適用することが重要です。
共有持分の評価は個別の事情に左右されるため、非常に難しい評価です。私も訴訟に係る不動産鑑定評価を依頼されることが多いのですが、それらの不動産は共有持分であるケースがかなりの割合を占めます。調停・訴訟において、何ら根拠もなく減価率を〇%とする評価書がよく見受けられますが、調停・訴訟においては説得力が重視されるため、これらのことをきちんと記述した評価書と前述の評価書では同じ鑑定評価額であったとしても結果が大きく異なります。