【家事調停の現場から】共同親権の導入とこれからの課題
私は現在、福岡地方裁判所大牟田支部において、家事調停委員として活動しています。日々、離婚や親権、養育費など家庭に関わる多様な問題に向き合うなかで、2024年に成立した「共同親権」の導入に関する法改正は、大きな節目になると感じています。
これまで日本では、離婚後の親権は父母のどちらか一方が持つ「単独親権」が原則でした。しかし、2026年までに施行予定の新制度では、一定の条件のもと、離婚後も父母が「共同」で親権を持つことが可能となります。
これは、父母双方が子どもの成長に関わり続けることができるという点で、歓迎されるべき制度です。一方で、実務の現場ではさまざまな課題も浮かび上がってきています。
たとえば、親権を「共同」にするか「単独」にするかの判断で意見が対立すれば、それだけで調停や審判に発展する可能性があります。さらに、共同親権が認められた場合には、子どもの進学や転居、医療などの「重要な決定」について、父母の合意が求められるようになります。日常的に連絡を取り合う関係でなければ、これが新たなトラブルの種になる可能性も否定できません。
家事調停の役割は、当事者の話を丁寧に聞き、冷静に対話を促し、合意形成の道筋を探ることにあります。共同親権の導入後は、調停の現場でも、「どう親権を共有していくか」という合意形成支援の重要性がさらに増すと感じています。
今後、共同親権制度が本格的に運用されるようになると、それに伴って親権のあり方や、親どうしの協議内容をめぐって調停が必要となる場面が増えることが予想されます。特に、教育や医療、住居の選択といった子どもの重要事項について、両親の意見が一致しない場合には、家庭裁判所での調整が求められる機会が増えるでしょう。調停の現場でも、こうした新たなニーズに対応できる体制が求められていくと感じています。
制度は、使い方によって可能性にも課題にもなります。親が子どもの最善の利益を第一に考え、冷静な話し合いができるよう、調停委員として引き続き寄り添っていきたいと考えています。